ページの前半は手書きメモとキーボード入力のメリットデメリットの比較、後半は手書きでメモをとることによって得られる効果について。
ページ1← 手書きの効果
ページ2 パソコンやスマホの普及で漢字が書けなくなった人が増加
目次
手書きとキーボード入力の比較 メリット,デメリット
手書き | PC(キーボード) | |
---|---|---|
メリット |
・記憶が定着しやすい |
・メモをとるスピードが速い(手書きの1.2~3倍) |
デメリット |
・メモを取るスピードが遅い |
・記憶が定着しにくい |
手書きとキーボード入力(タイピング) スピード比較,1分間の文字数
手書き
通常1分間に40~50文字
速い人で1分間に60文字
タイピング
ある程度慣れている人で1分間に日本語50~100文字
速い人で1分間に日本語100~200文字
[参考]
アナウンサーが原稿を読むスピード
通常は1分間に300~350文字
速いアナウンサーで1分間に400文字
文字を書く速度
出典 情報処理教科書 高度試験午後II論述 春期・秋期
※この本の筆者が、受講生の協力を得て、何度か取ったデータより。
1分間に平均40文字前後 受講生の90%
1分間に平均50文字前後 受講生の9%
1分間に平均60文字前後 受講生の1%
2007年 広島工業大学の論文
「手書き情報入力速度の面から見たタブレット PC の評価」
http://www.it-hiroshima.ac.jp/library/kiyo/2007/kenkyu_pdf/inside/41_263.pdf
被験者:2006年度時点での情報系学科の大学3,4年生およびその学科出身の大学院生 計37人
平均入力速度(文字 / 分)
キーボード 58.1文字 ※手書きの1.25倍
紙への手書き 46.5文字
youtubeに上がっている動画の例
www.youtube.com/watch?v=oZajQbt-3ZQ
タイピング 126文字/分 ※手書きの3倍
紙への手書き 41文字/分
[参考]日本語ワープロ検定の入力スピードの例
1分間平均
初段 80文字以上
1級 70文字以上
準1級 60文字以上
2級 50文字以上
準2級 40文字以上
3級 30文字以上
4級 20文字以上
※日本語ワープロ検定は、日本情報処理検定協会が主催する民間検定試験。文部科学省後援。
https://ja.wikipedia.org/wiki/日本語ワープロ検定
2016年 手書きでノートを取る学生の方がよい成績をあげる傾向
2016年、プリンストン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究
パソコンでメモをとるよりも手書きでノートを取る学生の方が総じて成績が良いことが判明した。専門家らは、書くというプロセスがより深く情報を記憶に焼き付けると指摘している。
出典
2016.4.4 wall street journal 「Can Handwriting Make You Smarter?」
http://www.wsj.com/articles/can-handwriting-make-you-smarter-1459784659
gigazine
https://gigazine.net/news/20160407-can-handwriting-make-you-smarter/
プリンストン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームによって実施された研究。
大学生を対象に、普段の講義を手書きでメモをとる学生とノートパソコンでメモをとる学生を比較したところ、手書きでメモをとる学生のほうがよい成績をあげ、より長い時間にわたって記憶が定着し、新しいアイデアを思いつきやすい傾向にあることがわかった。
一般的に、手書きでメモをとる学生よりも、パソコン(PC)のキーボードでメモを残す学生のほうが、より多くの文字数を残せることがわかっている。研究によると、手書きのメモの場合は1分あたり22語を書き残せていたのに対し、PCでのメモの場合は33語を記録できることが判明している。
より多くの情報を残せるPCのほうが短期的にはメリットになる(場合もある)ことがわかっている。ワシントン大学が2012年に行った研究からは、講義の直後に行われたテストでは、キーボードでメモをとっていた学生のほうが少しだけよい成績を取る傾向を示した。しかし、その効果は短期間で失われてしまうこともわかった。同じ学生を対象に、24時間後に行われたテストの結果からは、キーボードでメモを残した学生の多くがその内容を忘れてしまうことが明らかになった。その一方、手書きのメモをとっていた学生は、記憶が長く残り、講義のキーポイントを確実に覚えている傾向にあることがわかった。
このことから専門家は、手書きでメモを残す行為には記憶を意識のより深い部分へ定着させる効果があると語っている。
キーボードを使ってメモを残す学生の場合は、講師が語った内容をそのまま文字に残す傾向があるのに対し、手書きのメモをとる学生は一定のまとめを行ったうえで文字に残す傾向があることがわかっているとのこと。自分の頭の中で1度まとめる段階を踏むことで、記憶を定着させやすくなる効果があるようだ。
問題はパソコンを使う人には逐語的にノートを取る傾向があることだ。キウラ博士(Kiewra,ネブラスカ大学リンカーン校の教育心理学者)は「皮肉なことに、速くノートを取れることこそが、ノートパソコンを使って記録を取ることの魅力だが、逆にそのことが学習(効果)を台無しにしている」と述べた。
キウラ博士は学生を対象に、講義の中で語った内容をどれだけ網羅できているかを測る実験を行った。すると、手書きメモで記録できていた内容は全体の3分の1程度にとどまっていたうえに、話すスピードに追いつくために重要な語句を書き落としていたり、文脈を記録しきれず、キーとなるポイントを逃してしまっていたことが明らかになった。
2014年 手書きメモの方が良く理解でき長く記憶できる
2014年、プリンストン大学のパム・ミュラー、ダニエル・オッペンハイマー
タイピングよりも手で書く人の方が飲み込みが良く、情報を長く記憶し、新しいアイデアを理解するのにもたけていることが分かった。
最初に、学生たちを手書き組とノートパソコン組に分けて、TEDトーク(講演)のメモをとらせる。トーク終了後に続く30分間で認識度を調査するテストを課し、その後、話題をTEDに戻して講義内容に関するクイズを行った。すると、手書き組の学生の方がノートパソコン組よりも、講義内容をより詳細に理解していることが判明した。1週間後に、同様のクイズを行ったが、やはり手書き組がノートパソコン組を押さえる結果となった。
出典 2014.4.23 「The Pen Is Mightier Than the Keyboard」
http://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/0956797614524581
lifehacker 2014.5.14
https://www.lifehacker.jp/2014/05/140514notetaking.html
手書きでノートをとった学生のほうが概念的情報をより長く記憶していられることが、心理学研究により明らかになった。
プリンストン大学のPam Mueller(パム・ミュラー)氏とDaniel Oppenheimer(ダニエル・オッペンハイマー)氏によると、手書きでノートをとるときには、否が応でも情報を処理し、取捨選択して書き留めることになるのに対し、パソコンを使う場合には、一字一句そのまま情報をメモしてしまう傾向が強くなるそうだ。
これまでの研究でおもに注目されていたのは、パソコンを使うと多くの作業を並行してこなせるため、気が散りやすくなるという点だった。今回の研究では、ノートをとるためだけにパソコンを使った場合でも、学習効率が低下する可能性が示された。なぜなら、パソコンを使うと、情報の処理が浅くなるからだ。
実施した3つの研究では、パソコンでノートをとった学生の場合、手書きでノートをとった学生に比べて、概念的な質問への回答の成績が悪くなることがわかった。パソコンを使うと、手書きよりもたくさんメモをとれるという利点はあるが、情報を処理して自分の言葉で書き留めるのではなく、講義内容を一字一句そのまま書き留めてしまう傾向がある。それによって、学習効率が低下することが示されている。
研究の詳細
2015.11.5『Harvard Business Review』より
なぜ、手書きのメモはノートPCに勝るのか
http://www.dhbr.net/articles/-/3576
https://hbr.org/2015/07/what-you-miss-when-you-take-notes-on-your-laptop
The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking
https://cpb-us-w2.wpmucdn.com/sites.udel.edu/dist/6/132/files/2010/11/Psychological-Science-2014-Mueller-0956797614524581-1u0h0yu.pdf
プリンストン大学のパム・A・ミューラーとUCLAのダニエル・M・オッペンハイマーによる研究。
研究結果によれば、ノートPCだけでメモを取ると、新しい知識を吸収しづらくなるという。何も考えないまま、ただ逐語的に入力する傾向が強くなることが主な原因だ。
「ノートPCでメモを取る行為は、全般的な概念理解および新情報の記憶に悪影響を与えるか」
ミューラーとオッペンハイマーは、この問いに対して3つの異なる実験を行った。
1
最初の実験では、プリンストン大学の学生たちを一室に集めTEDの講演映像を何本か見てもらった。参加者には、講演を視聴しながらデジタルでも手書きでもよいので「授業でいつも自分がやっている方法でメモを取る」よう指示した。その後、講演内容について「事実関係を思い出させる質問と、概念の理解度を試す質問の両方に回答」してもらった。
学生たちの得点は、手書きのグループとデジタルのグループで大幅に異なっていた。ノートPCを使った学生たちは、講演のあいだ「書き起こしに近い」長文のメモを取る傾向が見受けられた。しかし概念理解に関する質問では、手書きのグループのほうが有意に高い得点を取ったのである(事実関係のテストでは有意の差はなし)。
ミューラーとオッペンハイマーは、ノートPCによる「逐語的な書き取り」が記憶の低下を招いたのではないかと考えた。だがPCでメモを取ることの弊害は、すべての言葉を捕らえようとしてしまうことに留まらないのではないか。そう2人は推測した。
2
そこで第2の実験では、PCでメモを取る新たなグループに対し、講演を一字一句記録するのは避けるようにと指示した。「自分自身の言葉でメモを取ってください。話し手の言葉をそのまま入力するのではなく」と告げたのである。参加者たちは今回も講演の映像を見て、それぞれメモを取り、その後テストを受けた。
逐語的なメモは避けるように、という指示は「まったく効果がなかった」。ノートPCを使った学生は、自分の言葉ではなく、やはり「書き起こしに近い」方法でメモを取ったのである。前回同様、逐語的なメモと低い成績の全般的な相関関係は変わらなかったという。
3
研究者らは第3の実験で、別の可変要素に着目した。PCを使った学生は、手書きの学生よりもメモの語数が格段に多い。そこで2人は考えた。「より多くの内容を外部記憶装置に収めているのだから、自分のメモを復習する機会を与えれば、テストの成績が上がるのではないか」。PCを用いれば、直後には内容を思い出しにくくても、時間が経過すれば詳しいメモが役立つことになるかもしれない。
この実験では、参加者にノートPCか筆記用具のいずれかを与えて、講演のメモを取らせたあとで、「来週、講演についてのテストを受けに来てもらいます」と告げた。翌週、テスト前に10分の時間を与え、参加者らに自分のメモを復習させた。
PCを使用した学生は、やはりメモの分量が多かった。だがテストの結果は、概念理解と事実関係の両方で、手書きの学生のほうがよい成績を上げたのである。
この最後のテストで明らかになったのは、PCを使うと逐語的にメモを取る傾向が強まる結果、学習が妨げられてしまうという可能性だ。「メモの分量が多いことには、ある程度のメリットがある。しかし、何も考えないまま単に言葉を書き連ねるやり方をすると(これは手書きではなくPCを使ったときに起こりがちだ)、そのメリットも消えてしまう」とミューラーとオッペンハイマーは述べている。
2009年 ワシントン大学の研究
バーニンガー教授(Virginia Berninger)
2009.10.20 Futurity 「For kids, pen’s mightier than keyboard」
http://www.futurity.org/for-kids-pens-mightier-than-keyboard/
https://www.lifehacker.jp/2016/12/161216_handwrite.html
雑誌「Futurity」に掲載されたワシントン大学の研究によると、手書きで作文を書く子供の方が、キーボードを使う子供よりも、より良く速く書くことがわかった。
このようなパフォーマンスの上達は大人になっても明らかに続いている。この研究の執筆者のバーニンガー教授(Virginia Berninger)は、「大人の脳の画像検査では、文字の形成、選択、認識で優位であることが明らかだった」と説明している。
2017年 BBC 子ども 文字を手書きさせる効果
2005年にフランスのエクス・マルセイユ大学の研究者が公表した論文
2012年に公表された調査結果
2017.11.11 BBC News 「Do we need to teach children joined-up handwriting?」
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-41927258
https://gigazine.net/news/20171125-teach-children-joined-up-handwriting/
子どもに手書させることで、キーボード入力などでは得られない効果を得ることができる。
2005年にフランスのエクス・マルセイユ大学の研究者が公表した論文によると、3~5歳の子どもにおけるタイピングとライティング(手書き)の効果の違いは凄まじく、手書きの方が書いたものの内容をよく覚えることができるそうだ。
また、2012年に公表された調査結果では、過去に読み書きを勉強したことがない5歳の子どもにライティング、タイピング、文字の書き写しを行ってもらい、その後、MRIスキャンを行いながら子どもたちに対して文字の書かれた画像が示された。するとライティングを行った子どもは読書などで使用する脳の領域が活動的になったものの、タイピングを行った子どもたちの同部位は活動状態を示さなかったそうだ。
研究者たちは、証明されたわけではないものの、「書く」という身体動作が子どもが「何かを読む」という行為を学ぶ助けになる可能性があると結論づけている。研究論文の著者のひとりであるカリーン・ジェームズ博士は、「(体を動かして)何かを行うことは、認知発達において重要な役割を担う脳のシステムを構築する上で大切なことです」と語っている。また、手紙を書くとして、見ているだけの人と実際に手を動かして書く人では、まったく異なる影響を受けることになる、としている。
次のページは:パソコンやスマホの普及で漢字が書けなくなった人が増加