市販の変声用ヘリウムガスを吸った事で起きた子供の事故や、ヘリウムガスの危険性・注意点などについてまとめています。
ヘリウムは水素の92.64%の浮揚力(浮かびあがる力)があり、燃えないため、水素よりも安全なガスとして風船等の浮揚用ガスとして利用され、広告用バルーンや天体観測用気球どに使用されている。
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目次
ヘリウムガスを吸うと声が変わる仕組み
ヘリウム中では音速が空気中(※)より約3倍速い(純粋ヘリウム中では約1000m/s、1秒間で1000メートル)ため、ヘリウムを吸入してから発声すると、甲高い音色の奇妙な声が出る(ドナルドダック効果)。
※音速(音の速さ)は、大気中(空気中)では、セ氏0度1気圧で毎秒331.45メートル。温度が1度上がるごとに0.61メートルずつ増す。
※大気の平均的な組成は、窒素78%、酸素21%、二酸化炭素0.03%。
純粋なヘリウムガスと市販の変声用ヘリウムガスの違い、事故の原因・年齢層
ヘリウムガスを吸うと声が変わる効果に着目して、ヘリウムガスはパーティグッズとしても利用されている。
市販の「変声」用ガスには、酸欠等になるのを防ぐために酸素が20%ほど含まれているが、風船用ガスの誤用による事故や吸い過ぎによって嘔吐や意識を失う事故が度々発生している。その大半は12歳以下の子供によるもの。
「日本中毒情報センターによると、玩具に使用されたヘリウムガスを吸ったことによる事故の相談は、2001年4 月から2012年3月までに 32 件あり、患者の年齢は5歳以下が13件、6~12歳が18件、成人が1件と報告されている)。原因としては、風船のガスが26件、声が変わるガス(ヘリウムと酸素の混合ガス)が5件、不明が1件で、半数にあたる16件において意識消失、嘔吐、顔面蒼白、気分不良などの症状を認めた」
[患者の年齢]
5歳以下 13件 (41%)
6~12歳 18件 (56%)
成人 1件 (3%)
[原因]
風船のガス 26件 (81%)
声が変わるガス 5件 (16%)
不明 1件 (3%)
出典 日本小児科学会雑誌 第119巻 第5号
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/injuryalert/0053.pdf
事故例
3歳女児
・ヘリウムで膨らませた風船を店でもらった。その後、女児が風船の吹き込み口にストローをさして吸ったところ、真っ青になって倒れた。10秒ほどで泣き始め、いつも通りに戻った。
7歳女児
・声が変わるおもちゃのガス缶を吸いすぎて、意識を失った。背中をたたいたところ意識は戻ったが嘔吐した。
出典 日本中毒センター、日本小児科学会の報告
2015年、アイドルグループの少女(12歳)がヘリウムガスを吸うゲームで番組収録中に倒れる事故
jmty.jp/tokyo/sale-toy/article-17h8f
- 番組で使用されたのは、100円ショップ「ザ・ダイソー」の商品(ヘリウム80%、酸素20%の混合ガス)。「大人用」と表示されていたが、対象年齢などの記載はなし。ダイソーは今回の問題を受け商品の販売を中止した。
- 診断の結果は、脳の血管に空気が入り血流を妨げる「脳空気塞栓(そくせん)症」。
「ももいろクローバーZの妹分グループ・3B juniorの12歳のメンバー・Aさんが1月28日、BS朝日のバラエティ番組『3B juniorの星くず商事』の収録中にヘリウムガスを吸って救急搬送された事故。これについて、日本小児科学会が詳細を明らかにした。
同学会が公表した報告書によれば、事故発生は、メンバー5人が同時にガスを吸い、1人の声が変わるというロシアンルーレットのようなゲームの収録中。Aさんが鼻をつまみ、司会者の合図でヘリウムガス入りのスプレー缶を吸引したところ、約4秒後に右手を震わせ始め、後方へ卒倒。受け身を取れずに後頭部を強打し、全身性の強いけいれんを起こしたという。
病院に救急搬送されたAさんは、意識障害が遷延したためICU(集中治療室)へ。その後、意識状態と左半身のけいれんに改善が徐々にみられたものの、入院6日目に再度けいれん。空気塞栓症や、高次脳機能障害を残す可能性があると判断され、転院。以降は、高圧酸素療法が続けられたという。」
出典 日刊サイゾー 2015.5.26
http://www.cyzo.com/2015/05/post_22106.html
「この女性は3月10日に退院し、11日からは学校への通学を再開したという。番組は「休止」の形をとっていたが、この会見で正式に終了を発表。局側は「総合的判断で終了とさせていただくことにしました」と理由を説明した。」
デイリースポーツ 2015年3月31日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150331-00000058-dal-ent
2016年5月、容疑者不詳で書類送検
事故は2015年1月28日発生。東京都港区のテレビ朝日本社内のスタジオで、BS朝日のバラエティー番組「3B juniorの星くず商事」の収録中、少女が、パーティーグッズのヘリウム混合ガスを吸った後に倒れた。パーティーグッズには「大人用」と記されていたが、対象年齢などの記載はなかった。
警視庁麻布署は23日までに、業務上過失傷害容疑の捜査結果を東京地検に書類送付した。同署は、番組関係者が事故を予想できなかったと判断し「刑事事件としての立件は難しい」としている。
麻布署は、ヘリウム混合ガスを吸うことの危険性が一般的に周知されておらず、事故の予見可能性は認められないと判断。番組の担当者らの注意義務違反も認められず、刑事事件の立件は困難とした。同署によると、国内では過去に同様の事故はなかったという。
意識を失った少女(13)は、脳の血管に空気が入り血流が妨げられる「脳空気塞栓(そくせん)症」と診断され、軽度の記憶障害が残ったが、ほぼ回復したという。
テレビ朝日は2015年11月、当時の番組プロデューサーらを戒告など懲戒処分にしていた。書類送付を受け、「安全管理体制の一層の強化に取り組む」「改めて本人や家族に深くおわびする。二度と起こさないよう取り組んでいく」とのコメントを出し、テレ朝広報部は「番組の収録でこのような結果を招いたことを心より深くおわびします。引き続き捜査に対して真摯(しんし)に協力してまいります」としている。
日本小児科学会が事故の詳細まとめを公表
「ガスを一気に吸い込み、肺の組織が破裂したことが原因と推定。テレビ朝日に当時の映像による検証を求めるとともに、子どもがガス入りスプレー缶を使う危険性を広く知らせる必要があるとしている。
今回のまとめやテレビ朝日の発表によると、少女は、玩具として販売されているヘリウムガス入りのスプレー缶を吸い、声が変わるゲームに参加。缶を4秒ほど吸った直後に倒れた。缶には「大人用」との表示があったが、スタッフは見落としていたという。(※対象年齢などの記載はなかった)
同学会こどもの生活環境改善委員会は、主治医からの報告を分析。鼻からガスを吐き出せない状態で、ガスを一気に吸ったことで肺の組織が破裂。切れた肺の血管から入ったガスが脳の血管をふさぎ、意識障害が起きた、と指摘した。
出典 YOMIURI 2015年06月09日
http://www.yomiuri.co.jp/national/20150608-OYT1T50135.html
ダイバー(潜水士)と脳空気塞栓症
脳空気塞栓症はダイバーによくみられる症例。ダイバーが息を止めて急浮上すると、水圧がかかっていた肺の中の空気が一気に膨張。肺胞破裂から塞栓症に至る。重症化するケースの多くは水深5~6メートルからの急浮上が原因になっている。
出典 産経 2015.7.7
https://www.sankei.com/west/news/150707/wst1507070047-n2.html
ヘリウムガスを吸うことの危険性 死亡事故の例
日本
ヘリウムガス単体だけを吸うと肺がヘリウムガスで満たされ、酸素が肺に入っていかなくなる。
「その違いを知らず、冗談のつもりで風船用ヘリウムガスを直接吸引した茨城の高校生が窒息死するという痛ましい事故が2007年に起きている。」
出典 日刊ゲンザイ 2014年7月10日
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/newsx/151749/2
海外
「2011年にJournal of Forensic Sciencesが行った調査によると、オーストラリアでは2005年7月から2009年12月までの間に79人もの死者を出しています。また、Office of National Statisticsの調査によると、2013年にはイギリスで62人の死者が出ており、2008年と比べると500%増というものすごい勢いで死亡事故が増えてきているのです。
では、実際にヘリウムガスを吸うと、私たちの体に何が起こっているのでしょうか? オーストラリアのガス供給会社BOCの話によると、ヘリウムガスを吸うと肺の中の空気とヘリウムガスが入れ替わるのですが、これは溺れている時に空気と水が入れ替わってしまうのと同じ原理。急に意識を失ったり、呼吸が止まってしまったりして死亡してしまうことがあるのです。
保険専門コンサルタントのグレッグ・マックグルダー医師は、酸素の割合が18%以下になると呼吸停止の症状が現れ始めると説明。ヘリウムガスは酸素と入れ替えることができるので、ヘリウムガスを急激に吸い過ぎてしまうと酸素の割合が減少し、呼吸停止や死亡事故につながるというリスクがある。
ヘリウムガスの入った風船は、ヘリウムガスが100%含まれているものが多いので、これを吸うのは非常に危険。一方、酸素が混じっているヘリウムガスなど、安全性を強調したヘリウムガスも多く販売されています。しかし、オーストラリアのガス供給会社BOCのコンサルタント、ダミアンの話によると、今後規制の対象になるのは風船だけではなく、声を変える目的で作られている酸素が混じったヘリウムガスも含まれるということ。いくら酸素が混じっているとしても、へリウムガスをどのくらいの速さで、どのくらいの量を吸い込むのかは人や状況によっても異なるので、一概に安全とは言えないとのこと。」
出典 マイナビウーマン 2014年11月24日
http://news.livedoor.com/article/detail/9503217/
要点
- 風船用ガス(ヘリウム100%)を吸ってはいけない。死亡事故につながる。
- ヘリウムガス単体だけを吸うと肺がヘリウムガスで満たされ、酸素が肺に入って行かなくなる。
- 市販のヘリウムガス(ヘリウム80% 酸素20%)を使用する場合でも、子供の使用には注意が必要。
- ヘリウムガス事故の多くは子供によるもの。